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カナカナカナカナカナカナ・・・・・・ 蜩が鳴く。 どうしてひぐらしが鳴くと少し寂しい感じがするのか・・・。 ひぐらしが鳴くと「夏の終わり」を感じてしまうからなのか。 それとも、その音色が悲しそうだからか・・・。 どちらにしてもそんなセミの声が聞こえるぐらいに静まり返っていた。 「・・・・・・」 誰も喋らない。 ただ、日が落ちるのを待っているかのように、ただ立っていた。 旅館の庭先に海洞 風未、草原 竜、保科 千奈、神宮 雛の4人が居る。 海洞部長は額に手を当てながら呻き、 竜はただ唖然とし、 保科は厳しい視線を雛に向け、 雛は下を向いていた。 誰も動かない。 いや、動けない。 4人の間にある重い空気が足を鉛のように重くさせている。 「雛さん」 しびれを切らして保科が喋る。 その声に雛を始め、竜や部長さえもビクッと震えた。 時が動き出す・・・ 「もう一度聞くわね? 貴女が言った事は本当?」 「・・・」 雛は唇を噛んで黙ったままでいた。 彼女の両手は握り拳を作って震えていた。 先程・・・、雛のある発言によって場が凍り付いてしまったのだ。 そして、保科の台詞で再開。そんなところだ。 「・・・答えたくないならいいわ。 貴女の言った事をもう一度言うわね? 別にボイスレコーダーなんて必要無いわ。それぐらい覚えられるから」 「・・・」 「・・・ノーコメントは肯定の証よ? 反論があるなら口を使いなさい。 貴女は生きているんでしょう!?」 「・・・」 保科に罵倒されて雛は握り拳を更に堅くした。 しかし、それだけだった。 「・・・今更自分の言った事が冗談だなんて言わないでしょうね。 貴女の反応を見れば嘘かどうかなんて職業柄分かるのよ」 (いつから就職したんや・・・) 言葉のアヤだろうが、ついツッコミを入れたくなる。 だが、普段と違う彼女の迫力に圧倒されてしまって声が出なかった。 普段は騒ぐだけ騒いで姦しいだけだと思っていた。 だが、今のこの落ち着きぶりと、言い回しの鋭さはどうだ。 髪型が違うのも手伝ってほとんど別人に見えた。 保科・・・計り知れない女であった。 「あなたはこう言ったわ・・・「何故犯人だと分かったの?」と。 なんの犯人かしら? ・・・決まってるわね? 墓荒しの犯人よね?」 「・・・・・・」 「そして、こうも言った。「仕方が無かった」と。 じゃあ何が仕方なかったのかしらね? 答えは簡単ね。 必要だったのよ「空の墓」が・・・」 「・・・・・・」 「私たちが墓参りに行くと言った時はかなり焦ったでしょうね? 言葉数が少ないのを気付かなかったとでも思ってたの?」 「・・・・・・」 保科はそれこそ射殺されるのでは無いかと思う眼光で雛を睨み続けた。 そんな彼女を見て、竜は高揚してきた。 今何が起こっているのかはよく理解出来なかったが・・・。 佳境なのは雰囲気で分かったので傍観する。 部長は・・・ショックが大きいのかずっと頭を抱えている。 「大体分かってきたわ。 貴女は本当は死んでいなかった。 だけど、死んだという事実を捏造するために・・・貴女は考えたのね。 自分の墓を用意しないといけない。 だけど、自分自身の目撃証言等が無いとアリバイが無いことになる。 だから・・・丁度事件を起こしてしまった日に居なくなった人が居た事を思い出して・・・利用した」 「違います!」 そこで初めて雛が叫んだ。 同時に保科に飛び掛り、そのまま押し倒す。 もつれるように倒れ、雛が上になる形で止まった。 マウントポジションだった。 だが、保科は瞳の色を変えずに続ける。 「・・・攻撃的衝動。 それだけは違うようね? そんな事はどうでもいいのよ。 結果として貴女は利用したんだわ。 田代 蛍助という人間を」 「・・・!」 保科の言葉が燗に触ったように雛が片手を挙げる。 そのまま殴りかかる前に、竜がその腕を掴む。 「!?」 「やめえ!」 「竜! 離してあげて」 組み付かれた体勢のまま保科は毅然に言った。 「え?」 「彼女も「被害者」なのよ・・・。 離してあげて」 「・・・あぁ」 襲われている本人が言うのだ、ここは離してやるのが良いのだろう。 それでもすぐ止めに入れる距離で居る事にする。 「何よ・・・」 雛が口を開く。 「うん?」 「何よ! 何もかも分かってるみたいな顔しちゃって! 腹が立つ! 貴女に何が分かるっていうのよ!」 「貴女の気持ちなんて分からないわよ?」 保科は無表情に言い放つ。 「こ・・・この!」 「ただ・・・事実だけは分かったつもりよ。 貴女・・・汚されたのね?」 「!?」 無表情にしか言えない内容だった。 笑うことも、怒ることも、泣く事も「他人」の自分には許されない。 「・・・そこは事実だったわけね・・・。 だけど、貴女のした事は・・・許される事じゃないの。分かってくれる?」 それは同じ女として痛みを知っているから・・・。 同じ・・・痛みを知っているから・・・。 保科自身、過去に「汚された」事があった。 それは悲しい過去。 だけど、目の前の娘は自分と重ねてはいけない。 まるで自分に言い聞かしてる気がして保科は自嘲した。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」 「良かった・・・。 まだ「戻ってこれる」みたいね。 じゃあ自首しなさい。 貴女は神楽 玲人を殺した犯人なのだから」 「・・・!」 核心をついた台詞を保科が言った瞬間だった。 雛は信じられない速さで何かを掴むと、それを力一杯振りかぶる。 ゴ! 鈍い音がした。 コメカミを抑えてうずくまる保科。 抑えた手の隙間から血が流れ出す。 雛の手には一握り程の血のこびり付いた岩。 (それで殴ったのか!) そう思うと竜は考えるより先に体が動いていた。 相手が女だとか関係無い。 全力で雛を殴り飛ばしていた。 「何やってんねんアンタァァァァァァァァ!!」 咆哮しながら二度、三度と力任せに殴る。 その旅に雛の体が右へ左へ飛ぶ。 「ちょっとまったぁぁぁ! 何やってんだお前は!」 騒ぎを聞きつけてか、そこに蛍助が現れる。 「何だ何だ! 何があったか知らないが女を殴るなんて竜! お前ってやつは!」 「うるさいわい! そこの保科見て言えるんか!」 「え・・・」 うずくまっている保科の手はもう流れ出した血で真っ赤に染まっていた。 気丈にも倒れこんでいないのが物凄い精神力だった。 「これ・・・雛がやったのか・・・?」 「そうや! あの子は殺人犯やったんや!」 「そんな!? まさか!」 「それが嘘でも何でも保科が殴られたんは事実や! 俺は絶対許さへんで!」 「うふふ・・・竜・・・ありがと・・・怒ってくれて嬉しい・・・わよ」 「保科!? 大丈夫なんか?!」 「大丈夫・・・なわけないわよ・・・。 竜・・・それより・・・逃げた・・・」 「・・・え?」 田代に気を取られている隙に逃げられたようで、見渡すと雛は何処にも居なかった。 「・・・なんやねん!」 「・・・うそ・・・だろ・・・雛が・・・」 カナカナカナカナカナ・・・・ セミが、ひぐらしが鳴いている。 竜にはそれが現実を知った俺達を笑っているように聞こえて腹が立ってくる。 田代が、この旅行の前に言っていた台詞をフイに思い出す。 「忘れられない思い出を作る」 悪い意味で忘れられそうに無い。 今回の事件は・・・まだ続く・・・ |
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